なぜ?あのイベントが成功しているのか考える

 世界には多くの参加者を集める魅力的なイベントがあり、CESやMWCなど10万人を超えるイベントも多く存在します。もちろん提供するコンテンツ(プログラム、登壇者等)の充実度も要素ではありますが、実は開催地というのはイベント成功に大きな意味を持ちます。

イベント成功のためのケミストリー

 ケミストリー(Chemistry:化学)は、英語圏でよく使われる表現ですが、複数の組み合わせによる化学反応や相乗効果を表していて、人と人の組み合わせやコンテンツと場所にも当てはまる考え方です。
とくにコンベンションにおいては、より多くの人が訪れたい場所という要素、そして場所が持つホスピタリティ。これらが混ざり合うことにより新たな価値を生み出すことがイベントの成功のための重要な要素となっています。

訪問してみたい街 > 面白いイベントがあれば訪問してみたい街 > 出来れば避けたい街

 その場所を訪問したい理由としては、自分のビジネスに関連する業界の集積地であること、例えば半導体やインターネットといったテクノロジー企業が多く集まるカリフォルニアのベイエリアであったり、エネルギー産業の集まるテキサス州であったりと、それぞれの産業界の興味を引く開催地は多く存在します。さらにビジネスだけの理由ではなく、エンターテインメントや治安など訪問地としての魅力は、人々を引き寄せる重要な要素となります。本来のイベント参加の目的からは離れているユーザーエクスペリエンス(訪問体験)もイベント設計の上で重要な要素となっています。

 イベントの成否には会場との組み合わせが生み出すケミストリーも重要な要素のひとつです。オースティンを北米でも注目の成長都市として昇華させたSXSW、国内外から17万人を超える参加者をラスベガスに集めるCESなど、開催都市との組み合わせで成否が決まるイベント。今回は開催地がイベントの成功にもたらす役割を中心に考えてみました。

イベント成功の定義を考える

 成功しているイベントの定義は様々ですが、今回はイベントの目的に合わせて集客ができており、経済効果を生み出しているかに注目します。

イベントの成功の形を考える場合に次の2点が重要と考えます。

  • イベントのコンテンツとして成功している
  • ロケーションとして成功している

 これら2つの要素を考えることは重要で、SXSWのチーフ・プログラミング・オフィサーのヒュー・フォレスト氏フォーブスジャパンのインタビューでロケーションの重要性について言及しています。

”他の都市でSXSWのようなイベントが成立するかどうかは、なんとも言い難いです。イベントの内容はもちろん、開催地自体に魅力がなければ、これだけ多くの人は集まりません。オースティンの穏やかな気候、名物のBBQやタコス、町中のライブハウス、それにフレンドリーな街の人たちも、SXSWに世界から人を呼ぶ重要な要素なのです。”

平凡なイベントを面白く見せる

 カンファレンスや展示会を魅力的にするものは、プログラムや企画が重要なのは確かですが、ロケーションの魅力は非常に重要です。イベントグローブの調査レポートでも、イベントの質以外に必ずロケーションは分析するようにしています。この指標を除いてしまうとイベントそのものがオーバレイテッド(過大評価)されてしまう可能性があるからです。

 同一ブランドのイベントを世界各地で開催しているケースを見ても分かりますが、例えばニューヨーク、ロンドン、東京他で開催されるアドバタイジングウィークなどは典型です。
 コンテンツや登壇者を見ても、実は他のマーケティングカンファレンスと変わりません。さらにはスピーカーを公募せず、スポンサーによるセールスピッチが中心となっているので、むしろカンファレンスとしてはそれ程魅力的な内容ではありません。それでもこのイベントがマーケティング業界にとって重要な意味を持つのはニューヨークというロケーションです広告とマーケティングの街ニューヨークであれば、会期中に業界の様々なステークホルダーと話ができる。(これはどのイベントでも同じなのですが)本当の価値はアドバタイジングウィークのイベント会場の外にあるのです。裏を返せは、ニューヨーク以外のアドバタイジングウィークは、わざわざパス代を払ってまで参加する理由を説明するのは難しいのかもしれません。

成功しているイベントの開催地エコシステムを考える

 イベントの成功に不可欠な、品質の担保、付加価値としてセレンディピティといった要素に加え、これらを促す仕組みを持ったローカルエコシステムが参加者、主催者の満足度を上げることは間違いありません。それを踏まえた上で近年のカンファレンスや展示会といったコンベンションの成功事例をいくつかのパターンに分類してみました。

  1. 全体最適化されたコンベンションシティー
  2. 地域で醸成されたイベントが街のエコシステムをコンベンション対応させたケース
  3. 観光資源をベースとしたエコシステムにコンベンションが誘致されたケース
  4. 経済的なインフラによるコンベンションの誘致
  5. 失敗事例:コスト増と施設の老朽化による崩壊

1.全体最適化されたコンベンションシティー

__ネバダ州ラスベガス__

 全米でも屈指のコンベンションタウンであるラスベガス。カジノの街という印象もありますが、実際にはカジノからの収入は3割以下で7割以上の収入はカジノ以外のエンターテインメントやコンベンションとなっており、年間660万人がコンベンション関連でラスベガスを訪れ、その経済効果は1兆2000億円に達しています。

 ラスベガスには、Las Vegas Convention CenterSands Expoといった10万平米を優に超える会場、9.7万平米のMandalay Bay Resortなど、それぞれが東京ビッグサイトを超える展示面積の会場に加え、数々のホテルが広大な会議施設を提供しています。ラスベガスの強みは、これらの会場インフラに加え、ホテル、レストランといったホスピタリティサービス、シルク・ドゥ・ソレイユのシアターを始めとしたエンタメコンテンツまで、コンベンションに参加する人々のニーズすべてに応える事が可能という点です。

 コンベンションのため(というよりは統合型リゾートとして)、街全体の全体最適化が進み交通インフラから教育システムまですべてのエコシステムを提供しているのがラスベガスのモデルです。

 近年、世界の大型イベント(コンベンション)の開催地では、宿泊費の高騰が問題になっており、これが間接的に参加者や主催者のビジネスを圧迫しています。しかしラスベガスは他都市と比較しても、価格帯の幅も広く全体的にリーズナブルな設備の利用が可能です。

 CESが最大規模のイベントになりますが、サンフランシスコで開催されていたOracle Open Worldがラスベガスでの開催決定をしており、あらたに6万人規模のイベントがラスベガスで開催されることになります。

2.地域イベントが街のエコシステムをコンベンション対応させたケース

__テキサス州オースティン__

  元々スモールスケールからスタートして、一大イベントへと成長した一番の事例はキサス州の州都オースティンで開催されるSXSWでしょう。元々ライブミュージックが有名な街、テキサス大学(University of Texas)のキャンパスがあり、数多くの学生がいるこの街にはいきいきとしたクリエイティブな雰囲気が満ちています。近年は著しい成長を続ける都市として北米でも注目を集めており、アップル、デル、インテル、サムスン電子を始めとしたIT企業に加え、ホールフーズ・マーケットなど他業種の進出も目覚ましく、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーなどIT以外の技術も集積され、産学共同の様々なプロジェクトが行われています。

 1987年に開催された第一回のSXSWは、地元のインディーズ系ミュージックを盛り上げるためのフェスとして700名の参加者から始まっています。その後、フィルムやインタラクティブ部門といった魅力的なコンテンツの拡充に伴い、会期中に40万人を超える訪問者が集まるイベントに成長しました。訪問者の増加に伴い宿泊施設の不足が課題となっていますが、多くのホテルが建設されており課題解決に向けてエコシステムが機能しています。

 オースティンのケースでは、元々スモールスケールから始まったローカルイベントが成長し、次第に周辺のエコシステムを巻き込んで行ったモデルです。元々、外からの来訪者に優しい地域柄と変わり者を受け入れる地域文化が組み合わさった化学反応の結果が40万人を迎えるイベントエコシステムの醸成です。

3.観光資源をベースとしたエコシステムがコンベンションを誘致

__スペイン バルセロナ__

 バルセロナは、MICEの推進にも力を入れており、市内にFira de Barcelona Gran ViaFira de Barcelona Monjuicがあり、総面積(30万平米+)は東京ビッグサイトの3倍に及びます。MWCを始めとしたグローバルイベントは10万人以上の参加者を魅了しています。

 MWCなどのコンベンションの成功事例は、産業界における重要性、コンテンツの品質はもちろんですが、バルセロナの観光資源をベースとしたローカルエコシステムが来訪者を魅了していることは間違いなく、MWCの開催によって地域経済への経済効果は500億円にも達しています。

 しかしその反面、バルセロナが元々抱えるオーバーツーリズムは課題であり、参加者の負担は大きいのも事実です。

 主催者であるGSMAと開催自治体との間で結ばれたコンセッションは2024年に満期を迎え、2025年以降は会場を移すことが発表されていますが、地域経済がこの規模の経済効果を失ってしまうという事実に対して、どのような対応を取るのかが注目されています。

4.経済的なインフラによるコンベンションの誘致

__シンガポール__

 人口540万人の都市国家であるシンガポールは、国の成り立ちとして国内外からのヒト・モノ・資本を呼び込むことが経済活動の基本であり、グローバルなコンベンションをはじめとするMICEの推進が活発な地域です。シンガポールエキスポサンテックマリーナ・ベイ・サンズの3ヶ所のコンベンションセンターに加え、レンジの広いホテル施設が整っています。

 シンガポール自体は市場としての規模は大きく有りませんが、アジアパシフィック地域のビジネスハブとして国内外から注目を集め、またアジアの交通網でも屈指のハブであるチャンギ空港があり、24時間眠らない街として周辺経済の中心地となりつつあります。

 展示会場/ホテルといった会場インフラに加え、スポーツイベントや観光施設などのエンターテインメントも充実しており、グローバル企業にとってアジアでのベストイベントロケーションと言っても間違いないでしょう。

 シンガポール程ではありませんが、韓国のソウルや釜山なども、MICE支援の活動が盛んでありグローバルイベントの誘致では会場費の助成金支援など、グローバルの主催者を誘致するためエコシステムが機能しています。

5.失敗事例:コスト増と施設の老朽化による崩壊

__カリフォルニア州サンフランシスコ__

 逆に会場やホテルなどのインフラは充実していても苦戦しているケースもあります。

 サンフランシスコには、ドリームフォースゲームデベロッパーズカンファレンスが開催されるモスコーニセンターに加え、数々のホテル会場があります。Google、フェスブック、オラクル、アップル、インテルといったテクノロジー企業が多く本社を構えるシリコンバレーに近く、世界中からのアクセスも良いコンベンションに理想的なロケーションです。

 特に国内外から17万人をサンフランシスコに誘致するDreamforceなどは、イベントグローブでも年間を通じて注目を集めるイベントですが、このイベントの開催地としてサンフランシスコがベストなのかは疑問が残るところです。

 近年では20年以上に渡りサンフランシスコでOracle Open Worldを開催してきたオラクルがラスベガスへの会場移転を発表しています。イベント開催のコスト増大に加え、会場周辺のホームレス問題など、サンフランシスコは大きな転換期を迎えています。

 一番の大きな課題は、宿泊コストの増大です。サンフランシスコには数多くのホテルがありますが、宿泊コストは全米で最も高いレベルにあります。また多くのホテルは施設の老朽化が進んでおり、コストパフォーマンスが良いとはいえません。さらに会場であるモスコーニセンター周辺は、元々低所得者居住地域や倉庫街が中心であまり治安が良いとはいえません。オラクルはサンフランシスコ市に改善を要求していましたが、満足の行く対応がなされなかったためサンフランシスコからの撤退を決定しています。

 またバルセロナで開催されるMWCの北米版が初開催されたのは2017年サンフランシスコのモスコーニセンターでしたが、これも2020年には会場をロサンゼルスに移しています。

 オラクルオープンワールド以外にも会場を移転する噂のあるイベントはあり、サンフランシスコ市当局は、今後宿泊インフラ、治安といった問題への対応を迫られるでしょう。

参加者や出展企業に優しいロケーションを考えることは重要

イベントの成功にはコンテンツの品質が最重要なことは変わりません。しかし多くの参加者が開催地域の外から集まる以上は、来訪者に優しいロケーション選びは重要です。

  • 国際空港からの便が悪く、会場にたどり着くまで一苦労
  • 値段の割に狭く、古いホテルで会期を過ごす
  • 周辺の治安が悪く、気楽に外を歩けない
  • そんな場所で、周辺に何もないのに深夜に食事場所を求めてさまよう

すべて実際の話であり、参加者はビジネスのために目をつぶっています。



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