イベント海外展開の難しさ

 日々世界中で開催され、様々な業界を盛り上げる展示会やカンファレンス。参加者や出展者にとっては、どんな情報を集めるのか?どれだけ商談をまとめるのか?が大事ですが、オーガナイザーにとっては、ステークホルダーに貢献するためのプラットフォームを開発することが重要となっています。

 その手法のひとつに成功モデルの海外展開があります。しかし、これも様々な障害があり、オーガナイザーは日々、ベストなモデル構築を模索しています。本コラムでは、イベント海外展開の課題と成功モデルについて追求します。

主催者はイベントを成長させることが仕事

 主催者にとってイベントの拡大は重要な課題。年を経るごとに参加者や出展者が増加し、業界に貢献することを視野に入れてイベントを企画・運営し、国内での成功事例を元に海外でのフランチャイズ展開まで、ビジネスの規模を成長させることを目指します。しかしサステナビリティ(継続性)、再現性が担保できないとブランド価値を下げることになってしまいます。

 イベントの海外展開には、開催国に法人を設立する場合やパートナー企業に委託するものまでありますが、多くはフランチャイズに近い業態になっているようです。

成功モデルのイベントでも再現は難しい

 業界をリードするオーガナイザーには、経験豊富なスタッフとノウハウがあり、新たな会場・開催地での開催においても、過去の経験を活かしてオペレーションを進めます。

 しかし必ずしも上手くいくものではありません。

 例えば、MITが主催するEmTechシリーズの海外フランチャイズもいま一つ継続ができておらず、ヨーロッパ、アジアともに継続されていません。そしてグローバルで成功モデルとされているCESは中国で、Slushはアジア地域で、Hannover Messeは米国でイベントの継続に失敗しているのが現状です。

 日本国内を見ても、近年では鳴り物入りで日本国内開催されたドリームハックジャパン(Dreamhack)は2024年の継続へのニュースは聞かないし、2023年に開催されたテックバーベキュー・サッポロ(TechBBQ Sapporo)もあまり盛り上がっていない。過去を見ても当時のグローバルでの成功事例であったSESWEB2.0なども実質単発で消えています。(海外発イベントで国内で続いているのは、国内は日本独自フォーマットで開催されている展示会中心イベントや、アドテックくらいかもしれません。)

 自国で開催される本家のイベントフォーマットが優れていても、海外展開に苦労しているケースは多数存在しています。

開催地域の熱量が大事

 業界を代表するイベントの成功モデルには共通点があります。それは開催地とのシナジー効果。開催地の業界ステークホルダー、そして環境が生み出すシナジーがやがてイベントの熱量を増殖させ、継続的なイベントエコシステムを醸成しているのは間違いなさそうです。

 40万人以上が参加するSXSWが開催されているテキサス州のオースティン、17万人以上が参加するCESが開催されるラスベガスなど、地域の持つ特性がイベントの成功に大きな意味を持っています。

 他にもドイツのベルリンは欧州における東西の接点として、テクノロジーに限らずアートからミュージックまでが集まり、Tech Open Airやベルリン映画祭のような世界中にアドボケータを抱えるイベントが開催されています。

オースティン

 北米を代表するイベントとして世界の注目を集めるSXSWが開催されるオースティン。テキサス大学の本拠地であるオースティンはライブミュージックの聖地として、インディーズ業界をリードしてきた歴史があり、これがミュージックフェスティバルとしてのSXSWを育成した素地となっています。イベント運営に協力するボランティアは数千人単位となり、地域住民にとっても自分事となっているのは間違いありません。

 近年はアップル、デル、インテル、サムスン電子を始めとしたIT企業に加え、ホールフーズ・マーケットなど他業種の進出も目覚ましく、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー企業なども進出しており成長著しい地域となっており、全米から多くの人材が集まっています。

ラスベガス

 CESを始めとして多くの産業界の主要なイベントが開催されているラスベガス。古くからカジノシティーとして知られていたラスベガスは、今日においてはカジノ以外の収入が70%を超えるコンベンションシティーとしてイベント業界をリードしています。
 ラスベガスには、ホテル、エンターテインメント、そしてイベントマーケティングを支える様々なインフラが整い、多くのグローバルイベントを誘致しています。かつてはサンフランシスコのモスコーニセンターで開催されていたOracle Open World(現:Oracle CloudWorld)やMWC Las VegasFancy Food ShowVMware Exploreなど主要なイベントの誘致に成功しています。

ベルリン

 1989年までベルリンの壁に分断され、東西の分水嶺だったベルリンでは、IFATech Open Airhub.berlinといったテクノロジーイベントから、ベルリン映画祭ベルリンアートウィークといった芸術祭まで多くのイベントが開催され、国内外から多くの参加者を集めています。

 ベルリンは、多様なアート、フード、ナイトライフに加え、比較的リーズナブルな滞在費が魅力となっています。近年はベルリン周辺でも様々なコストが高騰していますが、ヨーロッパでも注目されるコンベンションシティーとして多くのステークホルダーを集めています。

廃れる街もある

 オースティンやラスベガスのように盛り上がる街があれば、廃れる街もあります。DreamforceGame Developers Conferenceが開催され、イベントの開催地として西海岸を代表するサンフランシスコですが、近年、施設の老朽化宿泊費の高騰街の治安などの理由から、主要なイベントがサンフランシスコでの開催を見合わせています。サンフランシスコに本社を構えるオラクル、VMwareといったIT企業のユーザーカンファレンスや、通信業界、食品業界の主要なイベントが開催されていましたが、現在は開催地をラスベガスやロサンゼルスに移す主催者が増加傾向にあります。

サンフランシスコを離れた主要なイベント

  • Oracle OpenWorld
    ベイエリアで創業し、サンフランシスコで永く開催されてきたOracle OpenWorldは2020年よりラスベガスに会場を移し、Oracle CloudWorldとして開催。(2020/2021年は開催見送り)
  • MWC
    バルセロナで開催されるMWCの北米版として2017年にサンフランシスコで初開催されたMWCは、ロサンゼルス/ラスベガスで開催中。
  • Winter Fancy Food Show
    西海岸/東海岸で開催されるスペシャリティフードショーであるFancy Food Showは、2022年以降、西海岸の開催地をサンフランシスコからラスベガスに移転。
  • VMworld
    2022年まではサンフランシスコ開催。2023年からVMware Exploreとしてラスベガスで開催。
  • Google Cloud NEXT
    シリコンバレーを代表するグーグルが主催するクラウドカンファレンスは、2024年はは会場をラスベガスに移転。

 サンフランシスコの主要イベント会場であるモスコーニセンターがあるソーマ(SoMa)は、元々倉庫や低所得者層の住宅が多かった地域であり、お世辞にも治安の良いロケーションではなく、特に近年の合成麻薬の蔓延によって、さらに治安が悪化しており、今後もサンフランシスコを離れるメジャーイベントは増えるかもしれません。

 他にも地政学やパンデミックの影響で地域とのシナジーバランスが破綻しイベントの開催件数が激減した事例もあります。軍事政権によるクーデターにより製造業や材料の展示会が見送られているミャンマー、パンデミック後に早々にイベントビジネスを再開したロシア、中国も、紛争や長引くコロナ対策の影響で2022年以降に大きく失速しています。

2023年に期待される最新のシナジーがモデルは?

 2023年10月にオースティン以外での初開催となるSXSW Sydney。世界各地から多くのラブコールを受けながらも、主催者もオースティンでこそ成立するイベントと考えていて(上記コラム参照)、長くオースティンを出ることはありませんでしたが、満を持してのシドニーでの開催となります。オーストラリアは、アジア/オセアニア地域においても数多くのイベントが開催されており、文化的な背景がどのようなシナジーを生み出すのかが楽しみです。

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