年間3,000件を超えるグローバルイベントを紹介しているイベントグローブには、海外イベントの調査を通じて様々な事例が集まります。この調査から見えてくるイベントマーケティングのTipsを、イベントを運営する企業や主催者の皆さんにお届けしていきたいと思います。
2021年に執筆した”イベントマーケティングの考察”では、イベントサイトの間違った活用から成功するイベントページの基礎までを紹介しましたが、今回はあらためて海外のイベントサイトに見られる問題のあるケースを紹介します。
”イベントマーケティングの考察”シリーズ
イベントマーケティングの考察では、マーケティングの目線から効果のあるイベントサイトについて考えてきましたが、今回は実際にありがちな間違ったイベントサイトの運用事例を紹介してみたいと思います。
Contents
間違ったイベントサイトの運用
〜ユーザー目線の欠落〜
これまでのイベントグローブの取り組みを元に、世界のイベント主催者がどのような間違いを犯しているかを見てみましょう。
開催日程が分かりにくいケース
基本的な情報として開催日程は、サイト内でもファーストビューに入れるべき要素です。ユーザーがサイトを訪れたときに、5W1Hをどれだけ短時間で提供出来るかが基本です。しかし世の中に開催日程が記載されていない(或いは見つけにくい)イベントサイトは沢山あり、これがユーザーの負荷となっています。
例えばこのページですが、ファーストビューには開催日程がありません。通常ユーザーは、サイトをトップから閲覧するのでナビゲーション等のメニューは上に配置されることが多いわけです。
ユーザーはまずページの上部から月や日付の入った文字列を捜すわけです。しかしこのサイトのトップには、日程が記載されていません。
それがようやく出てくるのは、3スクリーンほどスクロールした辺りです。
ただしここでもトリッキーなのは、日付がイメージ化されているという点です。テキストベースで情報を探している人間の目にとって、イメージは必ずしも理解されるとは限らず、あまり英語が得意でないユーザーにとっては見落とす原因となります。実際にこのページを10人のユーザーに見てもらい、基本情報を探してもらいましたが、開催日程を3分以内の把握したのは2名でした。
サイトが検索しにくいケース
次にサイトが検索しにくいケースです。
この画像は実際のイベントサイトのURLですが、意味をなさない文字列から構成されています。詳細は分かりませんが、おそらくCMSが自動的に吐き出すURLではないかと思われます。EventBrite(イベントブライト)のようなプラットフォームの場合、特に制作者が指定しない限り、自動的に任意の文字列を割り振ってくれます。
この主催者の場合、CMSが生成したURLをそのまま利用しているようです。まず最初に参加者に向けてSave-The-Date的にテキストベースのサイトを公開しています。
そして会期が近づいた段階でビジュアルを含めた情報を追加するのですが、ここでURLを再生成しているようで、新たなURLに変更されています。これに伴い、最初に作成したサイトにあったアジェンダや登壇者情報のリンクまで差し替えています。また最近のCovid-19の影響で、イベントの開催がオフラインからオンラインに移行する場合にも更にURLを差し替えているケースもありました。
仕上げに、イベントが終了すると最終的なURLを削除してしまいます。
このやり方だと、イベントが終了してから次回開催が決定するまでユーザーは情報を得ることができませんし、仮に閲覧できても過去にどのような内容だったのかを知ることができません。そして最大の問題は、URLを変更することにより今まで蓄積してきたSEOの効果が無くなってしまうことにつきます。
そもそもURLを変える理由は何でしょうか?同じイベントのページであればURLを恒久的に利用したほうがSEOに良いことは間違いないですし、コンテンツを残しておけばユーザーが次回出張のための資料として利用可能です。
仮にURLを変える唯一の理由があるとすれば、アーカイブの公開でしょう。過去のイベント概要をマーケティングの材料として活用するのであれば、毎年(毎開催)新しいURLを追加していく方法もありますが、SEOの価値から考えればメインのイベントURLは固定して最新の情報を提供するべきで、古い情報は別のURLに移していくのが現実的です。
コムエクスポジアム・ジャパンのサイトが良い例ですが、このサイトでは過去に開催されたイベントの登壇者やプログラムの情報をアーカイブとして維持しています。参加者や出展企業は、これを参考に参加を決めているのです。
今回の事例に紹介している主催者はアーカイブを一切公開していないので、本来であればURL変更をする理由がありません。
いきなりリダイレクトのケース
以前リダイレクトされていないケース(リンク)を取り上げましたが、逆にリダイレクトが適切でないケースも多いのです。
出張目的のイベント検索でよくあるのは、探しているサイトが見つからないパターンです:
年々ブラウザーのブックマーク機能も使われなくなっているのは事実ですが、業務上の情報共有では今でもURLをシェアするシーンはあるわけで、このリンクが有効であるかどうかは重要です。
ー サイトが見つからないケース
前述のURL変更と同じく主催者がサイトを削除してしまった場合やURLを変更してしまった場合にリダイレクト設定がなければ見つからなくなってしまいます。
ー 主催者トップへリダイレクトされるケース
大手のイベント主催者で、サイトを削除してしまうケースがあるといいましたが、主催者が企業のトップページにリダイレクトをしている場合があります。
ここでおそらく主催者が大きな勘違いをしているのは、主催者トップに誘導すればユーザーが必要な情報を探せるだろうと考えている点です。
正直な話、99%のユーザーにとって主催者が誰であるか?は興味がなく、そこにリダイレクトされてもリンク間違いではないかと思うくらいではないでしょうか?
過去に勤務していた出版社で、従来は外からの電話に対して雑誌名で応答していたのですが、組織改編にあたり、社名を名乗ることに変更になりました。いままで「はい、日経エレクトロニクスです」と応答していたものを「はい、日経BP社です」に変更したところ、社外に対して大きな混乱を招いてしまったのは至極当然でした。年間を通じて購読しているビジネス誌ですら混乱するのですから、年に一回しか開催されないイベントにアクセスしたユーザーを、名前も知らない主催者ページへ誘導すれば、間違いと勘違いされてしまいます。
ここで必要な事は、ユーザーが探しているイベントはキャンセルされた、または今後開催されないというメッセージを提供することです。そのうえで、関連イベントのリストに飛ばすような施策が必要です。
ー 別のページへ直接リダイレクトされるケース
3番目のケースは、オーガナイザーが主催する別のイベントに直接リダイレクトするケースです。一見親切にも見えますが、これも適切なページでなければユーザーとしてはリンク間違いにしか写りません
一例としてBWMTech North Americaという船舶のバラスト水の管理に関するイベントの例をみてみましょう。
このイベントをイベント名でGoogle検索したときに表示される検索結果には、イベントグローブの他に業界団体や出展企業によるこのイベントの紹介が表示されます。
そのリンクから任意のページに行き、そこに表示されたBWMTech North AmericaのリンクをクリックするといきなりGST Europeにリダイレクトされるようになっています。
これは同じオーガナイザーが主催する船舶の環境テクノロジーのイベントのページです。
産業分野としては同じなのですが、開催場所が北米ではなくヨーロッパになっており、企業で考えれば担当外であることもありえない話ではないでしょう。
ここでユーザーが本当に知りたいのは、北米で開催されるバラスト水管理のイベントについてであって、ヨーロッパで開催される船舶の環境テクノロジーイベントではありません。仮に2021年はBWMTech North Americaが開催されないのであれば、翌年はあるのか?などの情報が最もユーザーが求めていることです。現状、この情報を知りえる方法がないのです。
ここで最低限の正しい手順は、ユーザーが目的であるコンテンツ(サイト)を見せる⇒それが中止であることを説明する⇒その上で選択肢を与えるという流れにしないと共感を得ることが出来ません。
同様にイベント名称の変更も混乱を招きます。名称が変わった時には、その旨を説明しないと、上記のいきなりリダイレクトと変わらず、ユーザーは正しいページを見ているのか判断出来なくなります。
基本中の基本としてページは削除しない
サイト全般に当てはまりますが、基本としてイベントのページを削除したりURLの変更(削除と同義)はしないことです。仮に一年に一回の開催であっても、ある程度の規模のイベントであれば一年の四分の一は様々なオーディエンスが訪れるのです。
イベントサイトは毎度毎度の刹那的に、イベント開催時だけのものと思ってしまうのは間違いであって、参加するオーディエンス、出展する企業にとっては、年間を通じて情報を提供してくれるプラットフォームなのです。
間違いが繰り返される理由
ここまでに上げてきた間違いがなぜ繰り返されるのでしょうか?
過去に複数の海外イベント主催者で働いてきましたが、やはりマーケティングに関する知識不足が最大の原因です。
エネルギー関連イベントを主催してきた時のマーケティングディレクターはマーケティングの基礎も理解しておらず、ディレクターとは名ばかりで単にイベント制作物のディレクションをしているだけでした。ユーザーが何を考えているのか?どうすればユーザーフレンドリーなサイトを開発出来るのか?基本的なマーケティングすら理解していないのが現状でした。
さらにWebの知識もなく、Webサイトの制作は外注でWebの基礎知識も持ち合わせていないケースが大半でした。
外注先のWeb制作者が多少でもマーケティングの知識を持ち合わせていれば、このような問題は発生しないのですが、多くの場合Web制作者は単なるデザイナーであって
以上、”効かないイベントページ”についてまとめました。イベントサイトに求められるのは、マーケティングの基礎的なフレームワークに加えて、インターネットであるゆえのSEOの実行です。これらを実現することにより、サイトへの集客(SEO)から、ユーザーの獲得(マーケティング)という流れを確立することが可能になります。