GDPで見るアフターコロナにおける日本経済

数字で見るパンデミック2年目の厳しい現実

 まだアフターと言ってよいか分からない新型コロナウイルス感染症ですが、入国制限も緩和されたタイミングで、新型コロナウイルスが世界経済に与えた影響について検証してみたいと思います。元ネタは2019年12月にポストした”名目GDP世界3位という幻想”になります。

名目GDP世界3位という幻想

 公開当時からアクセスの多かったコラムですが、3年以上経った今もアクセスの多い記事になり、イベントグローブのアクセスランキングでも上位に入っています。世界経済における日本の立ち位置をできるだけ簡単に検証できればと思っています。

アフターパンデミックの始まり

 長いコロナ禍において、世界のあらゆる産業が大きな打撃を被った訳ですが、新型コロナウイルスの状況が多少なりとも好転した時点で、世界の経済にどのような影響が出ているかを分析してみようと思います。

 前回のコラムでは2018年までのIMF統計をベースに各国のGDPを分析しましたが、今回は2021年までのデータがベースになっており、2020年に発生した新型コロナウイルス(Covid-19)の影響を反映したものとなります。当初の大幅な渡航/移動制限により発生した経済活動への打撃に加え、2021年になり継続的なパンデミックの影響が反映されています。

 今回もIMF(国際通貨基金)のデータを元に主要な国の名目GDPを参照しましたが、前回の執筆以降に新たにIMF統計に追加された国があり、一人当たり名目GDPの過去数値が部分的にアップデートされているようです。2018年の数値について当初統計に反映されていなかったアンドラが26位に追加され、その結果日本の一人当たり名目GDPが26位から27位に変更されています。

 2023年1月の時点で多くの国が水際対策を緩和したため、ビジネスに限らずプライベートでも国境を超えた移動も盛んになっており、1月5日からラスベガスで開催されたCESにも、国外から多くの参加者を迎えています。日本でも入国の規制緩和が始まって以来、多くの訪日観光客を迎え観光地にも活気が戻りつつありますが、規制緩和への以降が他地域と比較して遅かったこともあり、2022年の経済への影響を残しています。

名目GDPランキングから読み取れない経済実態

国別名目GDPランキング(IMF 2021年)
※金額はすべて米ドル

 まず前提として、名目GDPのランキングは、順位だけを見てしまうと前回(2018年)と概ね同じ顔ぶれで日本のGDPは世界第3位という(ミスリードな)順位は変わりません。

 実際の金額でみた場合、2018年比で米国が約10%、中国が約30%の成長をしています。日本はほぼ横ばいです。日本の名目GDPは、対アメリカで21%のシェア(2018比-3%)、対中国で28%シェア(同-7%)を占めていますが、上位2カ国に対するシェアを減らしています。

 名目GDPがなぜミスリードかといえば、国の総生産額である名目GDPは労働人口が多ければ増えるので、実際の国民一人あたり名目GDPで見ないと生産性の向上(=成長性)が見えにくくなるからです。本項では、名目GDPはあまり重要視せず一人当たり名目GDPに話を移します。

日本以外は一人当たり名目GDPを成長させている

 まず総名目GDP上位国の一人当たり名目GDP換算を見てみましょう。

上位10カ国は日本以外すべて一人当たり名目GDPを成長させている

 米国・中国共に、一人当たり名目GDPのランキングを上げており、引き続き成長を続けています。日本は順位・金額共に横ばい。詳細に見ると日本以外は2018年に比べてすべて一人当たり名目GDPが成長しています。(米国+10%、中国+28%、ドイツ+7%、イギリス+8%、インド+14%、フランス+5%、イタリア+2%、カナダ+12%、韓国+5%、日本-1%)

グラフでみる日本の負けっぷり

 日本から地理的に近い韓国、台湾に加え、アジアの優等生であるシンガポール、そしてグローバルのスタンダード指標としてアメリカの一人当たり名目GDPの推移をグラフにすると、日本の負けっぷりが鮮明になります。

アジアの主要な市場において、追われる側と追う側の立場は明らかになっている(IMF 2021年)
※金額はすべて米ドル

 近年経済が減速していると言われる韓国も2021年時点では実際に回復傾向が見られ、台湾も順調な成長を続けています。2011年に初めて一人当たり名目GDPがアメリカを追い抜いたシンガポールは、数度の抜き返しを経験しながら、2021年には過去最高の成長を遂げています。

 日本は順位こそ27位で維持していますが、実質の成長が止まっているためアジアの周辺国の成長ペースについていけておらず、シンガポールには引き離され、韓国/台湾には追いつかれる可能性が見えてきています。
 アメリカは2020年に一時的な減速を経験するも、2021年には2019年を超える成長を遂げており、過去30年に渡って国民一人当たりの名目GDPを成長させながら全体の名目GDPの成長を維持しています。

 明らかに日本だけがアジアの劣等生(過去10年に年平均1%のマイナス)となっているのが現実のように思えます。韓国/台湾は過去10年で平均4%/5%の成長を続けており、仮に各国がこのペースの一人当たり名目GDP成長率を維持すると仮定すると、2024年に日本を追い越すことも可能となります。実際にはロシアのウクライナ侵攻による経済の減速に加え、韓国経済の減速と政情不安や中国の対台湾政策など、2022年のGDPへの影響は引き続き観察していく必要があります。

成長を続ける新興国

アジアの優等生は堅調な成長を続けている

 こちらは東南アジアの5カ国の推移。人口も若く成長が見込まれ、世界の製造業が多く集まる地域が中心になります。シンガポールで収入を得る労働者も多く居住するマレーシアの数値が突出して大きいですが、農林水産業から自動車製造業にシフトしたタイも大きな成長をしています。インドネシア、フィリピン、ベトナムも継続的に成長を続けており、このままの成長を続けていけばアジアのトップグループに仲間入りする日も近いのかもしれません。

日本に起きていること

 全体像を把握するため、1990~2021年の主要国の一人当たり名目GDPとランキングを表にまとめましたが、すべてを掲載するとデータ量が多いので10年毎のランキング抜粋版を掲載します。

このデータから分かることをまとめると:

  • 一人当たり名目GDPが3万ドルを超える国が増加(1990年3カ国、2000年9カ国、2010年32カ国、2020年30カ国)
  • 日本は2020年に一人当たり名目GDPランキングを24位に上げているが、マカオ、アンドラが下がったためであり金額は変わっていない
  • 新型コロナウイルスのパンデミック期においても、2021年には主要なマーケットにおいて一人当たり名目GDPは成長しており、日本だけがマイナス成長を続けている。
  • 日本より一人当たり名目GDPが上位の国では多くが金額を伸ばしている
  • 日本は成長していない、世界は成長している

2021年の一人当たり名目GDPを過去と比較する

 前回のポストと同様に2021年のGDPを過去と比較してみました。まずアジアの上位グループ4カ国になりますが、シンガポール、韓国、台湾共に過去5年間で20〜44%の成長をしています。日本は5年前と比較して100%の横ばいですが、10年前との比較では19%のマイナス成長です。

 東南アジアの新興国に目を移すと、過去10年で10〜91%の成長をしています。総じて人口の年齢構成も若く、今後も引き続き成長していくことが予想されます。

 比較的成熟市場であるドイツ、イギリスにおいては、過去5年10年との比較において10〜22%の成長を達成しています。ドイツは20年前と比較した場合に+115%の伸びとなり、これは1989年に崩壊したベルリンの壁に伴う東西統合によるGDPの下降が遠因と想定されます。もう一つの成熟市場であるイギリスにおいても20年で70%成長しています。イギリスについてはBREXITの影響もあり、もう少し詳細な分析が必要かもしれません。

 自動車産業や農業といった成熟経済と新興のテクノロジー産業を抱える米国は、過去30年に渡って米国は国民一人当たりの名目GDPを成長させながら全体の名目GDPの成長を維持している

2022年以降はどうなるのか?

 今回のデータはIMFの2021年統計がベースになっているため、2022年に入ってから進んだ円安の影響は反映されていません。また緊張の続くウクライナ情勢や、それに伴う原油高など、様々なマイナス要因が数字に影響を与えてくるのが2022年以降になるので、通常秋に公表されるIMF統計をベースにアップデートしたいと思います。

2022年以降の経済に影響を与える要因

  • 2022年に進んだ円安
  • ウクライナ情勢とそれに伴う資源価格の高騰
  • 新型コロナウイルスの水際対策緩和

 最後の新型コロナウイルスの水際対策緩和については、日本では影響が出始めるのが2023年以降になりそうですが、日本以外では早い時期から緩和が進められており、2022年の時点で何らかの効果がは現れると想定しています。

 以上が2021年までのまとめになりますが、原則として名目GDPを指標とした分析にも課題があることは確かです。より精緻な分析のためには実際の購買力を考慮した購買力平価GDPを指標にするほうが良いのかもしれませんが、あくまでも成長率の比較という目的で考えると名目GDPで問題はないのかもしれません。購買力平価GDPの課題は、全体のGDPの指標では問題なくても一人当たり購買力平価GDPを指標にした場合、新興国の経済成長を過大評価しがちになることに加え、上位に入る国が産油国かタックスヘイブンに偏ってしまうという傾向があります。

 本稿の目的は、金融商品や天然資源を中心とした経済ではなく、実際に生産活動を行っている人がいて、経済活動があって、そこで動いている金額を求めた上で比較、経済の成長性を見るということなので、金融や単一天然資源の製造で回っている経済(国)が上位になる指標って、実体経済とは離れているという観点から、名目GDPを指標としています。


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