日本にはなぜグローバルイベントが根付かないのか?

 日本で国際カンファレンスを運営してきて感じてきたことなのですが、正直なところ海外の事業者にとって新規のイベントを開催することは難しいのです。それは日本の風習的に根付いたものであり、単に会場を増やせば解決する問題ではないと思います。どうすればもっと有効活用できるのかを含めて考えてみましょう。

日本の会場と海外の会場の根本的な違いとは?

 過去にシンガポール、韓国、インドネシア、アブダビの展示会場やホテルと一緒に仕事をしましたが、日本と海外の違いを一言で言うと海外の会場はホテルの延長にあるサービス業、日本の会場は不動産時間貸し業といった感じになります。

 海外の会場の場合、単に展示場所を提供するだけでなく、その周辺のサービスを提供してくれますが、日本の場合はすべて主催者が手配する必要があります。

 MICEのカンファレンス等で、国内の会場面積不足が国際カンファレス誘致が進まない主原因のように語る論調もありますが、会場不足は原因のひとつであって本質はそこではないのではないでしょうか?仮に会場の面積を増やしたところで、おそらく既存の国内イベント主催者が利用するだけであって、本来想定している海外のイベントオーガナイザーは日本の会場を選ばないかもしれません。

 過去に欧米、アジアのイベントオーガナイザーの仕事をしてきた経験から、商習慣、設備とサービス、面積の観点でまとめてみました。

1)予約の取りにくさ:過去の実績に基づくクローズドな取引

 大手の会場は通常過去実績からの口約束ベースが優先されていて2〜3年先の問い合わせにも対応できないのが現状です。それに対して(一般的に)海外の会場は契約書ベースの先約や規模が優先されます。

 日本の会場は小さなイベントであっても過去の取引があれば優先されてしまい、ホールがひとつ埋まっていれば、仮に全ホールを必要とするイベントがあっても簡単には会場を提供出来ません。これは最終的な稼働率には影響していると思われ、会場の総面積から見た場合の稼働率は下がっている筈です。

 以前日本展示会協会が提供していた世界各国の会場稼働率統計を確認したところ日本が40〜65%、そして展示会ビジネスの成功事例であるドイツの場合は10%台前半です。稼働率の計算方法に違いがあるようで、おそらく国内の大規模展示会場の稼働率を会場全体のどこかが埋まっているという基準ではなく、ホール個別に算出した場合は上記の統計値より低くなるのではないかと推測されます。

 サンフランシスコで最大規模のMoscone Centerの事例を見ると、絶対的に規模の大きいイベントが優先されるのは当たり前で、仮に毎年開催のイベントでも利用面積が小さければ開催時期をずらされてしまうのが当然です。私が以前勤務していた主催者のイベントも会場面積の占有率が理由で他のイベントに会場を回されてしまった経験があります。

 会場の営業担当者の立場から見た場合、成約の難しい単発の大規模イベントよりも小規模でも毎年開催してくれる(可能性の高い)リピーターの方を大事にした方が良いのは理解できます。しかし、売上規模の大きい案件が優先されるというビジネスの基本が優先されなければ、いつになってもグローバルカンファレンスの誘致は不可能でしょう。

 実際に2017年に開催されたGastech Japanのケースでも、当初予定していたスケジュールで幕張メッセの全ホールを抑えることが難しくスケジュールの調整を余儀なくされた経験があります。全ホールと会議場を一括で利用する依頼よりも1ホールだけを毎年利用する顧客が優先されてしまうのが現状です。

2)サービスの脆弱さ(英語対応、保税、図面手配)

 実は海外のカンファレンス主催者が一番困るのが普段のコミュニケーションや手続き上の各種サービス問題です。まず外国語対応(いわゆる英語)が最初から可能ではないケースが多いのです。海外主催者は海外でのイベント開催にあたり、まずは会場にメールや電話で連絡を取りますが、すぐにはコミュニケーションが取れないのが通例。契約書等の書類についても、英文の準備には時間もかかります。

 次に大規模な展示会になると搬入する資材の保税も重要です。モーターショーや産業系の展示会など、持ち込み資材の価格が数百万から数千万円に及ぶものを日本国内に持ち込む必要があり、会場が保税されていない限りは、出展社が自ら税金を納めなくてはならなくなります。これは一時的な持ち込みであり輸入行為ではないので、免税が適用されなくては展示会のたびに納税が必要となります。

 これを回避して、特定の区域内においての資材の持ち込みにおいては税金を免除するという措置(該当区域を保税とする)を取るのが通例です。この保税の手続きは非常に煩雑なもので、分厚い日本語の書類の準備だけでも数ヶ月。そして申請にも数ヶ月かかる作業になります。世界の主要展示会場は、基本として通年で保税されており、展示会開催のたびに出展者が保税手続きをする必要がありません。同様なことは消防関連や食品衛生の手続きでも発生しています。

 さらに展示会場利用のフロアプランなどは、海外の場合、会場側がCAD図面を準備して、それをベースに主催者が施工業者への入札を行いますが、日本の会場は図面を準備したりはしません。図面は主催者が先に施工業者を指定し、その業者が準備をすることとなるので、海外事業者は開催が確定する前に日本での施工業者を選択必要が発生します。

 海外の主催者の場合、その会場での展示会開催が可能かどうかの判断をするために事前にフロアプランが必要となりますが、その図面を提供する施工業者を開催決定前に指定する必要があり、これは全くもって順序が逆になっています。

3)設備の脆弱さ(ケータリング)

 2017年に幕張メッセで大規模なグローバルイベントを開催したときに初めて気づいたのですが、日本の会場にはグローバル標準の大きな厨房設備が敷設されていません。Gastechは本格的なグローバルカンファレンスを日本で開催するということで、すべてをグローバル標準に合わせる必要があります。

 日本のケータリングサービスの場合は、大規模なバンケットへの対応は可能なのですが、終日に渡って何回にも分けて小ロットの飲食を提供するのは得意ではありません。この終日に渡る小ロット配達への対応には会場のキッチン設備が不可欠なのですが、通常は会場独自の小規模ケータリングのためのキッチンしか用意されておらず、Gastechのような規模で4〜5社のケータリングが常駐して対応するのは難しいのです。ケータリング事業者は、事前に注文を受けた一日分の食材をフードトラックで会場に横付けし、トラック内で仕上げて配達する形になりますが、この形式では朝から夕方まで調理したての食材をサーブするには向いていません。ケータリング事業の課題については別項で説明したいと思います。

4)面積:

 実は面積の問題は、上記の問題から比べると国際カンファレンスの誘致には不利にならない可能性もあります。あくまでもグローバルの商習慣を優先して、大規模の申込みが優先されることが前提ですが、国内の大型の展示会場を見回した場合、国際カンファレンスを開催する事のできる面積を持った会場は3ヶ所くらいではないでしょうか。上記のように会場の予約が取りにくいことは事実ですが、Singapore Expo(10万sqm)Sands Expo & Convention Centre(12万sqm)や韓国のKINTEX(10.8万sqm)といった主要会場と比べて、絶望的に会場面積が狭いわけではありません。

東京ビッグサイト:

展示会場 141,780sqm、会議室が最大1,100名収容で大小22室。国内では最大規模の会場ですが、大きく2つのエリアに分かれた展示会場と、そこから距離のある会議場のレイアウトはグローバルカンファレンスの運営に不利になっています。

 

幕張メッセ:

展示会場 72,000sqm、会議室が最大1,600名収容で大小27室。都心から離れていますが、展示会場には柱がないこと、展示会場外のホワイエも広い。展示会場と会議場が直結し、距離も近いため海外の主催者からも評価は高いです。会議室の他にもイベントホールの利用で3,000人クラスのカンファレンス会場は可能。

インテックス大阪:

展示会場 70,000sqm、会議室が最大290名収容で大小23室。面積はメッセに近いものがありますが、展示会場は複数に分かれていて会場内に柱があります。空調の増設を行ったため柱の周りに大きなダクトが設置され、これが会場の使い勝手を悪くしています。

 以上の3会場を見た場合でも、アジアの他会場と比べて極端にクオリティーが落ちる訳ではありません。Singapore Expoなどは、展示会場内の柱に加えてホール間の通路が非常に狭いなどの難点を抱えており使い勝手が良いわけではありません。

以上、会場という側面のみからの考察です。他にも、会場周辺の宿泊施設やMICEのこともあるので、次回以降に解説したいと思います。


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