CESの今と未来

クリエイティヴ・ヴィジョン代表 加藤氏に聞くCESのお話し

イベントグローブでは、業界の未来を創るキープレイヤーの方々のインタビューを実施しています。世界の産業界の未来を創るカンファレンス、貴重なTipsから四方山話までお届けしたいと思います。


第一回はラスベガスで開催されるCESの国内における認定販売代理店であるクリエイティヴ・ヴィジョン代表の加藤さんにオンラインでお話を伺いました。
聞き手:田中達之(EventGlobe)     
    古谷充弘(EventGlobe編集長)


田中本日はありがとうございます。早速なのですが、まずは簡単にクリエイティヴ・ヴィジョンについてお伺いできますか?

クリエイティヴ・ヴィジョン
加藤浄海氏

加藤:元々、日本の展示関係の会社に勤めていました。そのときに個人的にアメリカが好きだっとという事と、やはり米国の展示会の影響力に魅了されて、自分でやっていこうと思い、2013年に創業しました。

元々、日本の展示会の仕事が多かったのですが、海外のイベント取り組むことになり、2017年よりCESの認定販売代理店として活動しています。当初は日本企業の海外出展のお手伝いをしていたのですが、大阪商工会議所の海外展示会出展の取りまとめをやっていた関係で、海外のテクノロジーやエレクトロニクス関連の展示会の提案を求められたことがきっかけです。

そして大阪パビリオンを出展しました。ちょうど同時期にユーレカパークが勢いを伸ばした時期で、CESでは面白いことが置き始めているなと感じたんですね。

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翌年は日本企業のお手伝いをしつつ自分達でCESの取材に行きました。日本企業がどのような取り組みをしているのかを見ながら、事務局であるConsumer Technology Association(CTA)に飛び込みでお話を伺いました。

そこで分かったのが日本にはCESのレップがいないということでした。規模的に日本のレップがいても不思議ないと思ったのですが。そこからCTAとのお付き合いが始まりました。

田中:CESに定期的に通われるようになったのはいつ頃なのでしょうか?

豊田章男氏による
プレゼンテーション
CES®

加藤:2014年から通っています。まだEureka Park(ユーレカパーク)が小さなものだったときですね。 それより以前に行ったときは、まだまだCESは家電ショーのようなものだったのですが、2014年くらいから変わり始めた感がありますね。一例を上げるとトヨタは2015年に世界で初めて水素自動車のテクノロジーを一般公開したんですね。

それが世界的なセンセーションを巻き起こしたのではないかと思います。自社で独自開発した技術を展示会で一般公開するというのは珍しい話だった訳で、トヨタはCESを「水素自動車で実現するクリーンな世の中」という社会メッセージ発信の場としたのです。今では豊田章男社長が自らプレゼンをしています。この頃からCESが 家電ショーから未来を語る場所として変革してきたと思います。

日本企業を見てみると2010年以降は、家電の中身を作っている企業の方が多くなってきています。白物家電の外を作る人から、内部をつくるメーカーの方々が増えましたね。

CESが支えるスタートアップエコシステム

田中:加藤さんは2014年位からCESを見続けている訳ですが、最近のCESはどのような変化が見られるのでしょうか?

加藤:2020年のCESを見てみると、前年より中国企業の参加が減っていますね。出展も減りましたし、来場も1万人以上減っています。今年は大統領選もあり、この傾向は今後も続くようですね。
主催者も今が日本の巻き返しのチャンスではないか?と感じているようです。

田中:2020年のユーレカパークはどうだったのでしょう?

加藤:今年も拡大を続けていますね。今までフランス、ヨーロッパが伸びてきていますが、アフリカ諸国のテックスタートアップが増えて来ているのが面白い傾向です。

田中:そんななかで日本企業の動きはどうなのでしょう?

加藤:ジェトロが音頭をとってジャパンパビリオンを展示していますが、日本はまだ連携感が弱いのかもしれません。まとまり感が弱いような気がします。

田中:フレンチテックみたいな一体感が欲しいかもしれないですね。

加藤:2020年は弊社でまとめているパビリオンもジェトロと協力をして、日本企業のまとまり感を作っています。今回12社(前回は8社)が展示しています。ジェトロは40社くらいの企業を無料でサポートしています。 経産省による素晴らしい取り組みではありますが、自社参加の企業の方がガッツがあるようにも見えるのも事実ですね。

また韓国も国を上げてサムスン主体のユーレカパーク的なものがあり、大学生を支援してボトムアップを狙う取り組みがすごいです。

EventGlobe編集長
古谷充弘

古谷:韓国の取り組みはSXSWでも積極的でしたね。数年前に参加したときには金融企業の団体がスタートアップの支援をしていました。

田中:台湾も同様ですね

古谷:日本だけがゆるいのかもしれません。お金だけ出して、サポートが弱い?お金だけ入れればいいという感があります。
日本は世界への人の輸出が弱いですよね。いま新規での日本人移民っていないのが現状です。ヨーロッパも韓国・中国はすごい数の移民をだしていて、日本にはその覚悟が足りないのかもしれません。 まだまだ目的ではなくて手段が先行している。

田中:国のリードが弱い。

新たな局面を迎える展示会の活用

田中:ところで来年のCESは、オンラインをとりこむらしいですが?

加藤:2021年の話は始まっており、会場も拡大します。オンラインへの取り組みももちろん始まりますが、従来のオフラインがメインに進めます。

ラスベガス・コンベンションセンターのノースホールの北側にウエストホールができるので、元々ノースホールで出展されていたモビリティ関連が移動します

田中:CESは、まだまだ拡張を続けていて、人も企業も集まる場所ですね。2020年で気になった企業ありますか?

インポッシブルバーガーによるプレゼンテーション
CES®

加藤:インポッシブルバーガー(Impossible Burger)ご覧になりました?CESの使い方がとても良いですね。家電では無い企業。CESは一年の始まりのイベントであり、世界中のCEOやエグゼクティブが集まって挨拶、メディアがあれだけ集まる環境で、世界が変わっていく様が見えている。そのなかでのフードテックは見せ方として業界の大きな動きを演出しています。 また前々年からは米農業機械のJohn Deere(ジョンディア)が出展を始めていて、そこで自動運転の農業機械の発表をしています。家電、テクノロジーの展示会から未来の食や農業といった、身近な未来を見せる・創る場になってきているのを感じています。

田中:そういえば2020年のフレンチテックも農業関連の展示が多かったですね

加藤:そうですね、完全自動化されたインドア農業も展示されていましたね

田中:そういったエレクトロニクス以外のものがアウトプットされるケースとしてインポッシブルバーガーがあり、バーティカルなしくみが繋がっていますね。

加藤:あれを実現出来る場を考えると日本だと難しいですね。あれは国とインフラ、ロジスティクス、そして歴史のすべてが整っている場所でないと実施できないですね。

田中:来年に向けての新しい動きについてのイメージありますか?

加藤:展示というよりも、より未来を発信する現場になる。モノの時代が終わっていて、企業が描く未来を発表する場になっていきますね。トヨタのコネクテッド・シティーが良い例ですね。

田中:日本企業による参加・出展が増えていると思いますが、日本企業がCESをもっと活用するためにはどうしたら良いでしょうか?

展示会場 CES®

加藤:日本企業は視察が増えていますね。近年はJTBだけでも視察ツアーを300件ほど企画しているようです。2019年の百数十本と比べて大きな伸びですね。他の旅行代理店も多くのツアーを組んでいます。
しかし、視察ツアーで得られるものは限られていて、小さくても出展する方が意味があると思います。お金をかけるなら見るだけではなく、 出展して、その場に立った方が得るものが多いです。

古谷:そこは以前運営していたマーケティング系のカンファレンスでも同じでしたね。明らかに出展の方が得るものが大きいです。
私が所属していた米国のカンファレンスの場合ですが、とある企業のケースで出展、社員のホテル渡航でトータル200万くらいの投資で、出展期間中にその場で1500万くらいの案件が決まっていたようなので、短期的に見ても投資効率は悪くないようですね。
ちなみに、CESって、小さなブースでいくらくらいから出展可能なんでしょうか?

加藤:一コマ3m x 3mで約50万円くらいですね。日本の展示会と大きくは変わらないです。 小さなターンキーブースも用意しています。

田中:CESを含めて、海外カンファレンスの利用について自分がプレイヤーになるべきですね。 日本企業と海外企業の出展に対する臨み方の違いってありますか?

加藤:日本人の方って、コミュニケーションが不得手な分、資料の作成に時間を掛けていますね。 展示での説明をいっぱい書いてしまう。欧米の方々はどちらかといえばメリットを訴えて、そこからコミュニケーションを発生させる。日本はコミュニケーションを減らすため説明を書いている感がありますね。ちょっと内向きに感じます。スタートアップは例外ですがね 。

田中:日本企業からの悩みって聞く機会あると思いますが?

加藤:自分がプレイヤーとして立つと始めて、何が難しいかがわかる。弊社のサービスは、それがわかるようにサポートできるようパビリオンを作っています。日本企業にが出やすい環境つくりを重視しています。

田中:各社目的は様々でしょうが、根本的な設計ってどうなんでしょう?

加藤:皆さん、そこは課題で上手くできていない企業は多いと思います。しかし、以前よりは各社経験を積まれているので改善されていますが・・・。

うまく行ったパターンでいうと、 元々CESに出展されていたベンチャー企業がCES自体では思うような成果をだせていなかったのですが、その後のGDC(Game Developers Conference)で大きな反響を得ることができました。ゲーム業界に向けたテクノロジーで出展初日に担当者と出会い、3日めには決済者とのミーティング。その企業は翌年は海外イベントの予算を10倍に拡大していましたね。
必ずしもCESがすべての企業にとって最善の選択ではなくて、よりフォーカスしたイベントへの取り組みが大事です。

古谷:やはり決済の規模とスピードは全く違いますね。1000万から2000万はその場で決済しますね。100万円の決済でも会社に戻って稟議を回していくのではスピード感が圧倒的に足りないです。

田中:やはり、一点集中ではなくて分散する事も重要ですね。

加藤:さきほどの企業の社長は、元々日本の大手メーカーに在籍していて、当時、国内からの発信では限界があって、テクノロジーをアメリカから発信することが必須と考えていたようです。自社テクノロジーはアメリカ発信で逆輸入しないと負けると。
その会社も、米国での成功もあって、今は国内のメーカーにM&Aされています。

COVID-19流行によるイベント業界の変化

古谷:概論としてですが現状のCOVID-19に対応するなかで、バーチャルやオンラインでの対応があると思います。今後の動きとして、オフライン展示会って減っていくと思いますか?

加藤:Semicon West(セミコンウェスト)がオンライン開催になったりと、米国でも取り組みは進んでいますね。私達も社内で議論をしたのですが、結局オンライン展示会って、WEBサイトと何が違うのか?にいきついてしまうんですね。オフラインが持つ、人と人がであって偶発性を持つイベントの面白さを再現することが難しく、なかなか浸透させるのが難しいですね。ここから数カ月間で色々は事例が出てくると思います。

古谷:イギリスのFT Liveがかなりアグレッシブにオンラインイベントの事業化での新しい取り組みをしています。またベルリンで開催されているIFAは展示会参加人数制限をかけていくと発表していますが展示会としては成立しにくいですね。 逆にO’Reilly Media(オライリー)は25年間に渡り運営してきた対面型のオフラインのカンファレンス事業からの撤退を発表しています。

特定商品を見るだけであれば、オンライン展示会で十分ですが、偶発的な発見はオフラインが強い。これは新聞のモデルと一緒で、オンラインメディアだと能動的に見に行く記事しか見ないですが、紙の新聞の凄さは意図せずに視線の隅に飛び込んできた記事を読んでしまう。これはオフラインのイベントと一緒ですよね。 会場を歩いていてたまたま出会った人との話に価値が出てくる。もちろん価値のないイベントもあると思いますが 。

加藤:生き残るのと無くなってしまうのが分かれるんではないかと思いますね。

田中:オンラインで価値を見いだせるのか?あるいは今まで通りの価値観に囚われてしまい、迷走する場合と・・・

古谷:カンファレンスは、うまくマネタイズできる環境ができればオンライン化しやすいですね。オンラインでもお金を払っても良いと。

田中:現実的に2020年内は厳しく、年初のCESがちょうど良いタイミングだと思いますね。 我々は2月にMWCツアーを計画していたのですが、不幸なことに中止せざるを得なかったので後処理は大変でした。

古谷:MWC BarcelonaもSXSWもタイミングも悪かったですが、中にはイベント初日に開催を中止したイベントもありました。

田中:日本企業の2021年の出展の動きはいかがでしょう?

加藤:一部保留をされている企業の方もいますが、すでに多くの企業は準備を始めていますね。

田中:来年のCESは、私達も参加したいです。ぜひ現地でお会いできればと思っています


編集後記:
CESの窓口となって、日本企業の海外出展をサポートするクリエイティヴ・ヴィジョンの加藤さんにお話を伺いました。CESで何が起きているのか?色々な方が話をされていますが中の人からお伺いする話は非常に貴重な経験です。ぜひお役立てください。


ラスベガスというエコシステムは、歴史、インフラ、機能とカンファレンス業界にとっても特別な意味をもつ街でもあります。古くはカジノの街だったラスベガスがCESと共に復活し成長を続けているのは間違いない事実だと思っています。

現在オフラインでのリアルなイベントは実施が難しい状況にはありますが、イベントグローブも2021年のCESにはぜひ参加したいと思います。2021年はCESツアーも企画予定ですので、ご興味のある方はぜひご一緒しましょう。


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