イベントマーケティングの考察(3)

 年間3,000件を超えるグローバルイベントを紹介しているイベントグローブには、海外イベントの調査を通じて様々な事例が集まります。この調査から見えてくるイベントマーケティングのTipsを、イベントを運営する企業や主催者の皆さんにお届けしていきたいと思います。

成功するイベントページの基礎

〜正しいイベントページの作り方〜

 イベントマーケティングの考察、前回はユーザーに役立つサイトの取り組みについてでしたが、第三回は正しいイベントページの作り方について考えてみました。イベントオーガナイザーの方々だけでなく、企業でオフラインのマーケティングを担当する方々にも役に立つ情報です。

 まず前提としてですが、私はSEOの専門家でもデザイナーないし、自社のサイトをお金を掛けて宣伝しているわけでもありません。メディアのオーナーとして、日々世界各地で開催されるビジネスイベントの情報を集め掲載しているだけです。それでもイベントグローブに掲載されている海外イベント情報ページの6割は、グーグル検索の1ページ目に掲載されています。タイミングによっては、本家のイベント主催者のページより上位になることも多いのが事実です。

 さて、この2年ほどのイベントグローブの取り組みを元に、イベント主催者のサイトが抱える問題と、イベントページがどうあるべきかを考えてみましょう。

目次:

イベント主催者ページの課題とは?

◎◎⇒ 基本情報と詳細情報のバランス/自己満足/SEOの課題

◎イベントサイトはコモディティ

◎成功するイベントサイトとは?

◎正しいイベントサイトに必要な要素

◎◎⇒ 目的の定義/見た目/動画の活用

◎イベントマーケティングに最も重要な話

イベント主催者ページの課題とは?

 さて正しいイベントページとはなんでしょうか?

 企業のコーポレートページであれ、コマースサイト、イベントのページであれ、Webページであることに変わりはないので、基本を押さえるのが重要だと思います。

 基本とは、目的の設定とそれを達成するにはどうすれば良いか?を考えることです。

 まずは、イベントの主催者ページにありがちなパターンをまとめてみます。

1.基本情報と詳細情報のバランスが悪いパターン

 日本のWebサイトに多いのですが、一般的に日本のイベントのサイトは文字量が多すぎます。トップのページから大量のテキストが挿入され、要点を把握するために全文を読まなくてはいけないのです。これは日本人が作る企画書にも共通するのですが、文字量が多い割にユーザーが必要としている情報が欠けているケースが多いです。

 一般的に好ましい構成は、トップはビジュアルを中心に5W1Hの基本概要。このページを見るだけで参加を検討しているユーザーが出張申請書を書けるくらいの情報を盛り込みましょう。

2.自社プロダクトやサービスに愛が強すぎるパターン

 これは日本独特かもしれませんが、やたらと「自社イベントが凄い」とか「社長の功績」を語るケースがあります。これはユーザーが求めている情報ではないので不要です。

3.SEOを全く知らないパターン

 SEOにばかり気を取られてしまうのも問題ですが、全く意識しないのも問題です。実は、多くのイベント主催者がイベントが長期的なポートフォリオであるということを理解していないようです。多くの主催者にとってイベントは会期中のものであって、開催前後とのつながりが理解されていません。しかしイベントに参加する人たちも出展する企業も、イベントが開催される何ヶ月も前からサイトを閲覧して情報を集めているのです。だからこそイベントサイトを継続的に盛り上げていくことが主催者にとっても参加者にとっても重要なのです。そしてWeb上にあるページが無限に増え続けていることを考えると確かにSEOは大事なのです。

 そこで一番気になるパターンは、毎回イベントページのURLを変えてしまっているケースです。URLに開催年を含めたり、毎回イベント名を変えてそれに合わせた文字列に変更してしまうケースが散見されます。そして、新規に作られたページへのリンクもなく、サーチ検索順位の低い翌年のサイトは掲載順位も低くなります。同様にイベントページURLが全く意味を持たない文字列になっているケースもあります。

 毎回URLを変更する行為は、雑誌に例えれば販売する書店を毎回変更し、更に次号がどこで販売されるのかを告知しないのと同じ行為です。購買者は毎号複数の書店を回って探さなくてはいけないのです。

 特に最近はCovid-19対策としてイベントをバーチャル開催に移行するケースが増えており、主催者がバーチャルイベント用にURLを変更して公開する場合があります。URLを変更した場合、それまでに集めてきたユーザーのトラフィックを損失する可能性があります。

 私はSEOは専門外なので深くは言及しませんが、それでも基本としてサイトURLは固定されたものを使い続け、同じURLの中でコンテンツを書き換えていくことがSEO的には重要だと理解しています。世界のWebサイトの標準規格であるW3Cはwebページを作成するときに必要な要素を定義しており、これに沿ってサイトを作成することによって、検索エンジンが情報を集約しやすくするを可能にします。適切なキーワードの運用に加え、URLの継続性は最も重要な要素です。

イベントサイトはコモディティ

 世の中には、ユーザーが率先して訪問してくれるイベントページはたくさんあります。CESMWCといった業界を代表するイベントには、ユーザーが能動的に検索して訪問します。これは業界のデファクトとして具体的なイベント名で検索されるからであり、イベントグローブでもこれらのサイトはダイレクトにユーザーが訪れています。

 これらの業界デファクトのイベントと比べれば、あなたのページはあくまでもOne of Themであるということを意識しなくてはいけません。多くのイベントサイトは八百屋の商品棚に山積みされているピーマンのひとつと変わらないのです。貴方がどれだけ良い製品やサービスを提供していても、インターネット上に存在するコンテンツ(ページ)は常に似たキーワードを含むサイトと比較されています。運良く検索結果の1ページ目に掲載されても、サイト内のナビゲーションが悪かったり、情報が不備であれば、ユーザーはあっさりと他のイベントサイトのサービスに乗り換えてしまいます。最高品質の製品を廉価で提供していても、中庸な品質の製品を貴方より3割高い値段で提供している競合に負けてしまうことはいくらでもあります。

 普段からネットを利用してたくさんの製品を比較しているユーザーがスマートかと思えば、必ずしも正しくはなくて、そこはスマートなサービス提供者が勝ってしまうのです。

成功しているイベントサイトとは?

 成功しているイベントサイトに共通しているのは、ユーザーのコミュニティ化に成功していて、イベントの会期に限定せずユーザーを集めることができることです。年に一度のイベントである限りは、年間を通じて大きなトラフィックを維持することはありませんが、それでも3日間のイベントのサイトがコミュニティを中心に3ヶ月に渡って盛り上がるのであれば、それは成功しているサイトであり、その成功が翌年のイベント開催のためのマーケティングに結びつくのです。

 考え方としてイベントを「会期という“”」で捉えるのか、それとも「年間を通したコミュニティーの“ハブ”」としての“面”で捉えるのかの違いではないかと思います。長くイベント業界の方々とお付き合いをしていますが、多くの主催者は会期中だけがイベントと思っている傾向があって、会期が始まるまでは営業にしか触手の動かない人が多いのが特徴です。

 これはイベントをマーケティングのプラットフォームとして利用する出展企業にとっても同様で、イベントマーケティングというものが会期中だけの話として捉える傾向があり、本来的なイベントのマーケティングプラットフォームとしての利点を活かしきれていないようです。

正しいイベントページに必要な要素

目的の要素(定義)

 一番大事なのはサイトの目的の確認です。じつは、これを出来ていないサイトが非常に多いのです。

 イベントのサイトで考えれば、主に来場者誘致のマーケティングではないかと思います。明確な来場者ターゲットを定義し誘致することに成功すれば、出展/協賛企業は自然と集まります。

 それではイベントに参加する人たちはどんな情報が欲しいのでしょうか? 展示が中心のトレードショーであれば、出展企業のサービスや製品の情報でしょうし、カンファレンスが中心であれば登壇者やプログラムのタイトルや概要でしょう。

 あなたのイベントサイトは、これらの情報を網羅していますか?

 必要なのはサイトユーザーが求める5W1Hのフレームワークであって、自画自賛の自慢話でも自社の社長を褒めることでもなく、ユーザーへの情報提供につきます。

 イベントグローブでも、時々「このイベントって掲載する意味あるんだろうか?」と悩むときがあります。自分が全く興味がない専門外のテーマだったり、ユーザー数があまり多くないイベントページで、さらに情報を集めにくかったりすると一気にモチベーションは下がります。しかしその掲載を決めるのは、編集者ではなくて、あくまでもユーザー(の行動=閲覧)と考えています。

見た目の要素

 目的が最重要と言いましたが見た目も重要です。一般的に日本のイベントのサイトは文字が多すぎ気の利いたビジュアルに欠けています。これは日本人が作る企画書と同じなのですが、とにかく文字が多くて、要点を把握するのに時間がかかります。

 国内のイベント主催者の方々には耳が痛い話とは思いますが、正直なところ国内イベントのWebサイトのデザイン、ユーザービリティともに世界的に見て最低レベルだと思います。海外の同業他社のサイトと比べてみると一目瞭然です。

 イベントグローブは、現在3,000弱の海外イベントを紹介していますが、日本のイベントサイトを扱わない理由は、海外のイベントサイトと比較して、デザイン性に乏しいことと情報量が少ないことが主因です。一般的な日本のイベントサイトをイベントグローブのフレームワークに落とし込んだときに、なんの意味もなさないページになってしまうからです。

動画は強力なツール

 いまさらではありますが、動画は強力なプロモーションツールです。日本のイベントサイトには少ないですが、海外のイベントサイトではセッションや展示会場の動画でサマリーを紹介しています。特に初めて参加するイベントであれば、現地の雰囲気が分かることは重要です。特に初参加の海外イベントであれば、参加者の服装やブースの雰囲気など非常に参考になります。

 配信プラットフォームは海外ではVimeoを使っているケースがありますが、日本ではYouTube一択だと思います。Vimeoは、配信先の管理等がやりやすいので、ライセンス管理が必要な動画や有料のセミナーコンテンツの配信には適していますが、プロモーション目的で考えれば圧倒的にYouTubeのほうが拡散力があります。

 また動画を使う場合は、閲覧者がシェアできるように設定することは重要です。動画を気楽にシェアすることができればあなたのイベント情報は自動的に拡散していきます。

イベントマーケティングに重要な話

 イベントに限定したお話ではないですが、マーケティングには「ユーザーを集めること」「購買してもらうこと」の2点が重要です。当たり前のように聞こえますが、近代のインターネットというメディアの登場によりマーケティング手法は大きな変化を遂げ、従来の手法が通用しなくなっています。

 従来のように、メディアを利用しての集客、訪問を通じてのセールスには限界があります。しかしWebサイトを最大限に活用することにより、参加者の集客+囲い込みから販売という流れを作ることが可能となります。

 一点気をつけないといけないのは、集客=販売機会という同時発生的な考えは通用しないということです。海外のイベントサイトを見ていると、アジェンダやイベントのPost Show Reportのように、閲覧者がそのイベントに参加するか判断するための初期情報の閲覧に登録を求めるケースが散見されます。これは、主催者としてイベントに興味を持った閲覧者にセールスのアプローチを掛けるための手段として一般的ですが、多くの場合に閲覧者は初期のアクションとして情報収集しているだけであり、この段階での過剰なセールスアプローチは逆にユーザーを遠ざけてしまいかねないことを心しておきましょう。

 SEOによって集客したユーザーをナーチャリングを経て、顧客化という流れを作ることがインターネットを活用したマーケティングの基本であり、これを実現するための仕組みやサービス体制を確立していきましょう。

まとめ

⇒ イベントサイトの課題

 ー 基本情報と詳細情報のバランスに留意する
 ー ユーザーの興味のない情報は入れない
 ー SEOを意識したつくりが必要

⇒ イベントサイトはコモディティ

 ー あなたのサイトはOne of Themである
 ー 競合他社サイトを超えるユーザビリティが必要

⇒ 成功するイベントサイトとは

 ー イベントサイトは年間を通したマーケティングプラットフォーム
 ー イベントは点ではなく、年間を通じた取り組みとして考える

⇒ 正しいイベントサイトに必要な要素

 ー 目的の定義と見た目の要素を逃さない
 ー 動画の有効な活用

⇒ イベントマーケティングに重要な話

 ー 集客と販売は同時発生しない
 ー 集客から獲得への流れを意識したナーチャリングが重要


 以上、成功するイベントページの基礎についてまとめました。イベントサイトに求められるのは、マーケティングの基礎的なフレームワークに加えて、インターネットであるゆえのSEOの実行です。これらを実現することにより、サイトへの集客(SEO)から、ユーザーの獲得(マーケティング)という流れを確立することが可能になります。次回は具体的にイベントグローブのサイトを作った際の考え方についてまとめたいと思います。


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