(続)日本にはなぜグローバルイベントが根付かないのか?

 前回につづいて日本にグローバルカンファレンスが根付かない理由を検証してみました。前回のポストでは、会場の課題を中心に日本のコンベンションの課題について考えましたが、今回はさらに周辺サービスについて言及したいと思います。

コンベンションセンターに必要な要素を考える

 海外の主要なコンベンション施設と比較して、日本の会場に圧倒的に不足しているのがホテルです。グローバルイベントを誘致する上でホテルは必須なので、この部分について、幕張メッセのある海浜幕張を中心に考えてみましょう。

 ここでは実際に世界各地でグローバルカンファレンスを開催するオーガナイザーを驚かせた事実をいくつか紹介します。

宿泊施設の課題

◆ホテルグレードの幅が狭い

 幕張メッセ周辺には数々のホテルがあるのですが、グローバルのビジネスエグゼクティブの要求に叶うホテルはありません。2017年のGastechでも、エクソンモービル、シェル、トタルといったエネルギーメジャーの役員クラスは都心の五つ星ホテルに宿泊し、毎日ハイヤーで幕張と往復していました。

 グローバルクラスの一流ホテルの不足は日本全体の話ではありますが、日本を代表するコンベンションリゾートとしては、欧米のトップホテルを誘致して欲しいところです。

◆ツインルームの設定が多すぎる

 本来、カンファレンス会場周辺のホテルであれば、ビジネス需要を考えてダブルベッドのシングルユースを多く設定するべきなのですが、幕張メッセ周辺のホテルを見ると80パーセントがツインに設定されています。

 理由を聞いてみたところ、修学旅行の目的地として人気の舞浜(ディズニーランド)から溢れたホテル需要を取り込むためにはツインルームが使いやすいとのこと。実際にはツインの部屋にさらに補助ベッドを追加して3名宿泊という運用も多いらしいです。

 現実的にみて、海外(少なくとも欧米)から展示会にくるゲストが一つの部屋をシェアするということはなく、出来る限り大きなベッドで疲れを癒すことがホテルに求められる条件です。

 日本の場合は、夫婦ですら別のベッドを希望することが多い(と言われているが、実際は分かりません)ということで、ホテルもツインを多く設定しているとのことではありますが、これでは海外からの訪問者からは見劣りのする施設に見えてしまいます。せめてナイトテーブルの設置位置を二つのベッド間から外側に移動して、シングルx2をゆったりと使えないとコンベンションのビジネス利用には対応できないでしょう。

ルームサービスの時間帯

 ルームサービスについても脆弱であるケースが多いです。大規模展示会場というのは、往々にして周辺にレストラン等がない場合も多く、出展側のスタッフは夜遅くまで会場で作業を済ませた後にホテルに戻って食事をします。しかし、多くのホテルは夜の11時程度までしかルームサービスを提供しておらず、これでは食事もままなりません。日本人であれば、どこかローカルな店に食事に行くことも出来るでしょうが、言葉や地理に不案内な海外からのゲストにはそれもままならないのでホテルのルームサービスは彼らの生命線なのです。

◆喫煙ルームと部屋の設備品

 健康増進法のおかげで禁煙ルームの数は増えていますが、まだまだ禁煙喫煙共用のルームは多く、これはネガティブな評価を受けています。

 もう一点、部屋に備え付けのアイロンが無いことに海外のイベント主催者は驚いていました。ズボンプレッサーはあるのですが、ジャケットやシャツにはアイロンが必要であり、海外のホテルであれば必須の備品です。2017年当時、ルーム数が400室を超えるニューオータニ幕張でもアイロンは5台程度しか用意されておらず、この点については、何時間も議論する必要がありました。

ホテルに求められるのは全体最適化

 グローバルイベントを支える会場となると理想的な形は統合型リゾート(IR)ということになります。ホテル、コンベンション会場、飲食など、すべてのサービスが連携したモデルです。近々日本でもIRの申請が始まりますが、統合型リゾートの強みはホテルとその周辺サービスの全体最適化が進んでいるところです。どうやら日本の既存ホテル・リゾートがこの全体最適化を実現できるかが、グローバルイベント誘致の鍵になりそうです。

 グローバルイベントを支える会場にあるホテルのモデルについては、誰でも知っているラスベガスの例を見てみましょう。

 米国の主要都市から国内線でラスベガスに飛ぶ場合、同距離のフライトよりも料金が安く設定されていて、ホテルも同様です。それは何故でしょうか?

 そもそもラスベガスを訪問する旅行者は大半がカジノを訪れる前提で、なんらかの形でお金を落としてくれることになっています。そのため、カジノが航空会社と協力して航空券代を安く設定できるようになっています。その値段設定によって、より多くの訪問者を集めれば、全体の売上が上がることは統計的に証明されているのです。

 逆に、明らかにカジノでお金を使わない層ばかりが訪問するとすれば、航空券もホテル代も上昇するようで、実際に1979〜2003年までラスベガスで開催されていたCOMDEXの期間中は通常期よりホテル代は2倍以上の設定でした。他のコンベンションと比較してCOMDEXの参加者は、あまりにも仕事熱心で毎晩ネットワーキングパーティーに参加してカジノへは行かない。90年にCOMDEXを訪れた際には、カジノが半分くらいは開店休業状態でフロアの半分はクローズになっていました。

 2003年より米NBCで放映されたLas Vegasというドラマシリーズがあります。ラスベガスのカジノホテルであるモンテシートを舞台に、セキュリティチームの活躍を中心に展開する物語。コメディでありサスペンスであるこのドラマでは、ホテル、カジノ、レストランといったリゾート内の各ビジネスユニットがいかにして利益をあげていくかが描写されています。

 米国でも屈指のリゾートであるラスベガスはコンベンションシティーとしても有名ですが、このビジネスモデルは全体最適化を徹底しています。リゾートの全体利益最大化のために、各部門のマネージャーの権限は最適化されていて、カジノに大金を落とす顧客からは部屋代、食事代も飛行機代も取りません。週末に数千万をカジノに落とす顧客から部屋代を取ることは全くホテルの利益にならなくて、それよりも全てをタダにした上で、リピーターとなってカジノで散財してもらう方がビジネスとしては論理的だからです。

日本へのグローバル展示会・カンファレンス誘致のためには、会場だけでなくホテルも会場と連携した運営ができるようになることは必須条件となるでしょう。

ケータリングサービス

◆脆弱なケータリングサービス

 前回のポストで会場のケータリング設備の不備について書きましたが、こちらは外部のケータリング事業者のサービスになります。

 欧米の場合、イベントでのケータリング事業者の役割は、数百社の出展ブースに複数回のケータリングを提供することです。朝はスタッフの食事、10時には来場者にサービスするコーヒーや紅茶、ランチ、3時のティータイム、そして夕方のドリンクレセプションです。このニーズに応えるためには、会場に大規模キッチンが必要なのですが、日本の場合は設備がないのでケータリング事業者が持ち込んだフードトラック内での準備となります。

 日本のケータリングサービスの場合は、大規模なバンケットへの対応は可能なのですが、終日に渡って何回にも分けて小ロットの飲食を提供するのは得意ではありません。これは会場に大型厨房が無いことにも起因していますが、この細かな対応ができないとグローバルイベントの需要に応えることは出来ません。

 そして、そこに追い打ちをかけるのは、食品衛生法です。下記の記事に説明はありますが、海外にはあり得ないような不可思議なレギュレーションがあり、これは改善するべきでしょう。

エンターテインメント

 以前シンガポールでエネルギー関連のカンファレンスに参加した時ですが、期間中にはスポンサー企業によるパーティーの他に、様々なアクティビティーが用意されていました。プロテニスの試合を観戦しながらのパーティーやゴルフなど、ビジネスの合間にもネットワーキングの一環としてカンファレンスにはエンターテインメントが欠かせません。

 ラスベガスがコンベンションシティーとして成功した理由の一つとしても、エンターテインメントは重要な役割を果たしており、7つのシルクドソレイユのシアターやデビッド・カッパーフィールドショー等、様々なホテルエンターテイメントはラスベガスを魅力的なコンベンションのデスティネーションとしています。

 世界の有望なコンベンションシティーには、15分以内で到達可能なエンターテインメントコンテンツが複数存在しており、日本におけるコンベンションセンターの成功にも、このようなエンターテインメントコンテンツは不可欠でしょう。

海外からの入国

◆入管手続き

 日本に拠点や提携先を持つ企業は良いのですが、新たなビジネス機会を求めて訪日する企業の対応が出来ていない分野がビザです。Gastechでも、日本法人を持たないエネルギー関連企業が多く参加しましたが、主催者として彼らのビザ取得サポートは苦労の連続でした。

 現在、観光、商用、訪問等で90日以内の報酬を得ない滞在でJビザが必要なのが、中国、ロシア、CIS諸国・ジョージア、フィリピンを中心に、多くの国籍が日本訪問時にビザが要求されています。問題は、ビザが必要なケースがあるのは間違いないが、その規定が曖昧かつ融通の効かない事実が日本のMICE事業を阻害していることです。

ビジネスにおける外国人誘致の課題 

1. 必要書類の定義が曖昧

 実際に外務省のページにある内容は下記のURL通りですが、イギリス本社から現地の在外大使館・領事館に問い合わせた場合には内容の違う書類の提出を求められるケースが多数ありました。

ビザ・日本滞在

 結果、参加企業の関係者がロンドン本社で準備した書類を持って現地領事館でビザ発給を断られたケースも多数ありました。

2. 大使館・領事館によって対応がバラバラ

 日本で開催されるイベントということで、主催者の日本法人としてサポートしましたが、提出する会社の登記簿謄本の本紙かコピーか?は、領事館によって違います。一部本紙でなかったためにビザの発給を断られたケースがあり、急遽本紙を取り寄せてクーリエで送ったケースがありました。

 参加者の国籍によって身元保証が求められるか否か? 外務省のページには、招聘元が費用を負担しない場合は登記簿、身元保証書ともに不要との説明があるのですが、実際には一部の領事館では提出を求められています。これは完全に領事館の職員によって対応がマチマチということです。

 この点については他国の領事館の方よりその旨を外務省に報告すれば正してくれるとの事で解決しましたが、主催者にとってはかなり大きな負担です。

 また、身元保証書を発行したケースでも、実際にビザが発給されたのか?実際に日本に来ているのか?など、実態が分かりにくいのも事実です。現実として、いったいどの程度の海外からの訪問者がビザを正規に申請しているのかがわかりづらいのが現状です。


 以上、グローバルイベント誘致に関わる障壁についてまとめてみました。日本のMICE事業推進には、前回ポストの会場の課題とあわせてこれらを解決していく必要がありそうです。


視察、出張、出展、イベントのお悩み何でもご相談ください!