IRとイベント会場の密接な関係

 新型コロナウィルス(Covid-19)の流行により、すっかり勢いのなくなってしまった日本のIR(統合型リゾート)の話題ですが、IR誘致の申請受付が始まる2021年10月に向けて水面下では様々な動きがありそうです。

 国内においてはカジノ法案についてまだまだ議論を重ねる必要はありそうですが、今回はIRとイベント会場の関係について考えてみました。

イベント会場と統合型リゾートの密接な関係

IR(統合型リゾート)とは?

国際会議場・展示施設などの「MICE」施設、ショッピングモールや美術館などのレクリエーション施設、国内旅行の提案施設、ホテル、レストラン、劇場・映画館、テーマパーク、スポーツ施設、スパ、そしてカジノなどが一体となった複合観光集客施設です。

 日本ではIR=カジノという誤解が存在していますが、より総合的なリゾートやコンベンション施設を含めたものであり、IRこそがイベント会場として最も有望な選択肢であることは間違いないでしょう。

オラクルの決断

 世界のコンベンション業界ではIR(統合型リゾート)がイベント開催のプラットフォームとして重要な役割を担っています。ラスベガスを始めとしてシンガポールやマカオが有名ですが、フロリダ州のオーランドもコンベンションセンターを中心としたコンベンションエコシステムが形成されており、年間を通じて多くのコンベンションやカンファレンスが開催されています。

 ラスベガスといえばカジノの印象が強いですが、実際のIRの収益は70%以上がカジノ以外からの売上であり、いまやラスベガスはコンベンションシティーなのです。現在ラスベガスではCESのような大規模イベント以外にも、アドビサミット(Adobe Summit)や、コンシューマ系のイベントを含め数々のイベントが開催されています。

 IRには、イベント会場、ホテル、エンターテインメントとすべてのインフラが整っており、この全体最適化のエコシステムに大規模イベントを載せてしまうのが一番の最適化案ではないか?というのが近年のトレンドです

 最近の例では、20年以上の歴史を持つオラクル・オープン・ワールド(Oracle Open World)が2019年を最後に従来のサンフランシスコのモスコーニセンターからラスベガスに会場を移すことを発表しています。これは会場費・ホテル代の高騰に加えて、町の整備不足に対する不満から条件の良いラスベガスに会場を移すという判断です。これによってサンフランシスコ市は6,400万ドル相当の経済損失を被ると言われています。

日本の課題は「IR=カジノ」という誤解

 日本はどうでしょうか?

 日本の場合「IR法案=カジノをつくる」という誤解があり、いまだにIR法案についてもロードマップが整備されていない状況です。

 IRというのは、ホテルやコンベンションセンター、レクリエーション施設を含む総合施設です。カジノは、あくまでもIRが提供するサービスのひとつであり、必ずしも必須条件ではありません。むしろラスベガスのようにカジノ外収入の方が多い事例や、フロリダのディズニーリゾートのようにカジノを含まない統合型リゾートも存在します。

 国内の議論に欠けているのは、IRは統合型リゾートでありカジノ以外の経済効果の方が大きく、国内市場の限られた日本にとっては有力な産業になる可能性を秘めているいう観点です。

コンベンション会場単体の開発では不十分

 東京オリンピック関連の開発に、築地市場の跡地をイベント会場に転換すると言う案もあったと思いますが、これもイベント会場単体で考えている限りは本格的なMICE事業の推進にはならないでしょう。

 また近年、東京ビッグサイトやパシフィコ横浜のコンベンションセンターが拡張されていますが、仮にこれらの会場単体の拡張を行ったところで、グローバルイベントのニーズに応えることは不可能です。(少なくとも海外からの来訪者のニーズに応えられません)

 総合的な経済の全体最適化モデルであるコンベンションシティーとして、お台場を中心にホテル、コンベンションセンター、エンターテインメントを含めた、全体最適化された統合型リゾートを開発するのであれば、アジアのコンベンションセンターとして海外からの誘致も可能となるでしょう。

アジアのIR業界の動き

 アジア圏にもシンガポール、マカオといった複数のIRがありますが、マカオはちょうど転換期を迎えています。

 マカオのリゾートには、政府とカジノリゾートの間で20年間契約(コンセッション)で施設の利用権利が付与され、多くのリゾートでその満期を迎えるのが2022年となります。この契約は比較的政府側に有利な条件になっており、コンセッション終了と共にテナントであるカジノリゾートは施設をすべて所有者である政府に引き渡す必要が発生します。

 これこそが世界のIR事業者の目が日本に向いている(投資意欲を持つ)理由です。

 現在マカオにあるカジノリゾートは、コンセッション終了までには移転先を探す必要性があるのです。日本のIR法案ですが、実はマカオのコンセッションとの関係が大きく、現在マカオで運営しているカジノリゾートの行き先がどこになるかと密接な関係があります。同時に、マカオのカジノ資本が日本に向かった場合に、近隣である韓国のIRへの影響は避けられないと見られています。

 マカオのカジノリゾートに残された選択肢としては、マカオ政府が例外的にコンセッションの期限を延長、または再契約するという選択肢、或いは韓国におけるIR開発への進出の可能性も考えられます。


 カジノには全く興味がないのですが、IRとその周辺エコシステム、コンベンションシティーとの関わりには興味をそそられます。これは日本人が不得意とするビジネスの全体最適化へのチャレンジであって、これこそがこの後の日本のMICE推進に結びつくのではないでしょうか?


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