問われるイベントの真価と進化

「新型コロナウィルス」という、世界中を巻き込んでいる未曾有のバイオハザードを前にして、イベントは窮地に立たされている。イベント業界に携わる自分として、こうして「イベントの無力さ」をまざまざと感じさせられるのは、もう9年前になる3.11以来のことかもしれない。人々が求めているのは、興奮して気持ちが高ぶる「高揚感」や仲間と作り上げる「熱狂」などではなく、自分自身や家族、大切な人の、身体と心の安全・安心なのだと。そんな人間として根元的な真理を前にして、我々には何ができるのだろうかと考えざるを得ない。イベントの真価はどこにあるのだろうか。

2月後半から加速した政府の対応は?

 こんな状況を踏まえて、政府は大規模な集会(イベント)の開催自粛を求めている。日本社会全体が待ちに待ったオリンピックでさえ、開催の是非を問う声が日増しに増えてきている。

政府の発表を時系列で整理してみよう。

1月16日:国内で初の新型コロナウィルス感染確認
2月13日:政府による新型コロナウィルス対策第1段(総額153億円)
2月25日:政府による新型コロナウィルス感染対策の基本方針発表
・ 企業に対しては従業員のリモートワーク推奨
・ イベント主催者に対する感染リスクを踏まえた上での開催是非検討依頼
2月26日:政府は、今後2週間は大規模なスポーツ・文化イベントの中止や延期、規模縮小を要請
2月27日:安倍首相による全国の小中高・特別支援学校、3月2日から春休みまでの休校要請
2月29日:安倍首相会見「今後1,2週間は国内の感染拡大防止にあらゆる手を尽くすべき」
3月1日:政府の要請を受けてイベントや営業を中止した事業者に資金繰りなどの支援策を行うと政府発表
3月5日:政府により、中国と韓国からの入国者全員の2週間停留措置発表
3月10日:政府により、新型コロナウィルス緊急対応策第2段発表
・おおむね10日間の大規模イベントの自粛継続を要請
・中小企業を対象にテレワーク等推進や資金繰りを支援
3月13日:新型コロナ対策の改正特別措置法成立
3月14日:『改正新型インフルエンザ等対策特別措置法』施行

 政府の動きが遅すぎたという声もあれば、小中学校の一斉休校はやりすぎだという声もあるが、何れにせよ、人類が初めて経験するこの新型コロナウィルスの脅威を前にして、我々日本人も出来うる限りのことをしなければならないし、イベントの自粛についても、政府の発表を真摯に受け止めなければならない。

 しかし、ビジネスの世界で見れば、オフラインマーケティングに関わる業界は、大打撃(というか、会社によっては致命打)を受けているのは間違いがない。EventGlobeでもご紹介している通り、世界中で軒並み大規模なカンファレンスイベントが中止や延期の発表をしている。

 EventGlobeで開催を予定していた2月の「MWC」が開催中止を発表した時は「中止はさすがにやりすぎじゃないか」と思ってはいたが、今のイタリア、スペインを始めとするヨーロッパの感染拡大による惨状を見ると、主催者としては英断だったのだなと改めて反省している。しかし改めて振り返っても、MWC中止のインパクトは本当に大きかった。

 CESは感染大流行の前に開催してしまったことである意味で運良く開催は出来たが、MWC以降のグローバルカンファレンスイベントはもう壊滅的な様相を呈している。数週間前までは、だいたい6月頃から落ち着くのではないかと思われていたので、6月のVIVA TECHINOLOGYあたりから一気に風向きが変わるだろうと考えていたものの、ここ1週間のヨーロッパの状況を見ると、夏を過ぎても難しいだろうと思わざるを得ない。

 このように大型のB2Bカンファレンスイベントは軒並み中止や延期になっているが、ただこうして社会全体の自粛傾向に足並み揃えて、おとなしくしている動きとは別に、なんとかこうした状況下でもイベントを開催しようとする動きが、中型・小型イベントの間で起こりつつある。人を集めることなく、オンライン空間でイベントを開催しようという動きである。その象徴が、リモートワーク需要で爆発的成長を遂げている「Zoom」の躍進であろう。

 ただのリモートワークツールとしての利用だけでなく、イベントや大学の授業などをZoomを通して開催する取り組みも増えてきている。
今更Zoomの魅力を語ることはしないが、Zoomが提供する価値の一つに「オンラインコミュニケーションであるがゆえのストレスを限りなく排除した利便性」があると思う。今までのオンライン会議ツールの類は、面倒な機器とアプリケーションを用意しないといけないにも関わらず、音声がうまく拾えなかったり、どうしてもスムーズなコミュニケーションができずストレスを感じることが多かったが、ZoomはそこらへんのUIというかUXが非常にユーザーファーストになっている。つまり、オンラインのコミュニケーションと、オフラインのコミュニケーションには大きな隔たりがあったものの、少しずつその隔たりが薄れてきている、ということになる。

この時期ならではということであれば、卒業式開催の是非が各学校で問題となっている。

 卒業式を中止にするところ、保護者参加を禁止にするところ、保護者だけでなく在校生参加も無しにして卒業生と先生のみで行うところ、などなどマチマチである。卒業式こそ、学校という現場で我が子の成長を噛み締めながら、その感動を味わうオフラインイベントの象徴でもあるのだが、そんな一世一代のイベントに参加できない保護者のために、一部の学校では、保護者のために卒業式のオンライン配信を行うところもある。子供達と同じ空間で感動を共有することは叶わないものの、全くその様子すら拝めないよりは、オンライン配信で少しでも卒業の時間を味わうことも、イベントとしての価値であると思う。

 こうして、テクノロジーの力を持って、「イベント活動自粛」の流れの中で戦おうとする動きもあれば、もっとエモーショナルに「自粛」と戦おうとする動きもある。

 若者たちが心惹かれる様々なバズるイベントを作り出している、パーティクリエイターのアフロマンス氏が、イベントなどの様々な「楽しいこと」が「自粛」になり、人々の心が暗くなってしまう現状を憂い、自らのファンたちに向けたメッセージであり、一方で自分自身で行動を起こしていくことの宣言でもある。

 またPR TIMESは、彼らの「リリース配信」というリソースを活かして、非常に面白い取り組みを発信している。

 いずれにせよ、このような状況においては、自粛要請を一切無視して今までと同じようにイベントを開催することは現実的な状況からは不可能であり、何かしらのリアクションをしていく必要がある。否が応でも、イベントそのものの形が少しずつ変わっていくしか道はない。この荒波を前にして、イベントがその本質的価値を損なわずにこの状況に適応していけるのか、まさに「真価」が問われていると言える。

 そして、人類が自身を取り巻く様々な環境の変化に適応してきたことを「進化」と呼ぶのだとすれば、この「自粛」という過酷な環境を経て、形を変えていくイベントもまた「進化」していくのかもしれない。

 この「自粛期間」が終わった後、果たしてイベントはどのような「進化」を遂げているのだろうか。